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第4話「縁の下から、病院の『要』へ」

事務長のつぶやき2026年10月15日 更新

事務長の今です!
事務長の今です!
私は若いころから、病院の事務職として働いてきました。

医事畑で15年、前職で事務長を10年。そして、現在の野宮病院では次長職を経て、事務長として7年あまり。
振り返れば、37年あまりにわたって病院事務の仕事に携わってきたことになります。

医事の仕事をしていたころは、患者さんの受付や会計、診療報酬の請求など、目の前の業務を覚え、正確にこなすことに精一杯でした。
その後、管理職となり、事務長という立場で病院運営に携わるようになると、仕事の幅も責任も大きく変わっていきました。
人事や労務、経理、行政対応、施設管理、経営に関わる判断。そして、さまざまな立場の職員と向き合いながら、病院全体を考える仕事です。

そんな私が、長い間、当たり前のように受け止めてきた言葉があります。

それが、「縁の下の力持ち」です。

医師や看護師をはじめとする医療職が患者さんと向き合い、診療の最前線で活躍する。
その一方で、事務職は受付や会計、レセプト作成、書類の作成、給与計算、経理処理、物品の管理払出など、日々の業務を通じて病院を支える。

目立つ仕事ではないけれど、誰かがやらなければ病院が回らない。

表に出ることはなくても、陰でしっかりと支える。それが事務職の役割なのだと、私自身もある意味では当然のこととして受け止めてきました。

ところが、ある医療雑誌の記事を読んだとき、その考え方を少し見つめ直すことになりました。

筆者は「縁の下の力持ち」という表現には、表舞台に立つのは自分以外の誰かであり、自分はその舞台を陰から支える存在である、という前提が含まれているのではないか。

そして、「要(かなめ)」という言葉も用いています。

「縁の下」が表舞台の外から支える姿をイメージさせるのに対し、「要」は、全体の中にあって、さまざまなものをつなぎ、成り立たせるうえで欠かせない存在を表しています。

同じように目立たない役割であっても、どのような言葉で表現するかによって、その仕事に対する捉え方は変わるのかもしれません。

この指摘を読んだとき、私は、長年携わってきた病院事務の仕事について、改めて考えさせられました。
どちらも、必ずしも目立つ存在を表す言葉ではありません。しかし、その言葉が持つ意味合いは大きく異なるというのです。
縁の下は、表舞台の外にいる存在。
一方、要は、全体の中心にいて、それぞれをつなぎ、全体を成り立たせる存在。

この違いを読んだとき、私は思わず考え込んでしまいました。

私たちは、いつの間にか自分たちの仕事を「縁の下の力持ち」と表現することで、自らを表舞台の外に置いてきたのではないだろうか。
誰かを支えることに誇りを持つのは、決して悪いことではありません。むしろ、病院という組織において、支える仕事は欠かすことのできない大切な役割です。

ただ、支えることと、表舞台の外にいることは、本当に同じなのでしょうか。

その筆者は、事務職が持つ強みを「鳥の目」という言葉でも表現していました。

病院全体を横断的に俯瞰し、さまざまな部署や職種の動きを捉え、それぞれの仕事がどのようにつながっているのかを見渡す視点です。

医事畑で患者さんや診療報酬に向き合い、前職では事務長として10年、そして現職では次長を経て事務長として病院運営に携わってきた年月。

もちろん、私自身がいつも病院全体を見渡せていたわけではありません。今でも迷うことはありますし、学ばなければならないことも数多くあります。

それでも、現場の仕事を知り、制度を学び、部署間の調整を重ねてきた経験があるからこそ、少しずつ見えてきたものがあります。
病院の事務職は、単に誰かを陰で支えるだけの存在ではないのではないか。
そう考えるようになりました。

もし、病院から事務職が一日いなくなったら、どうなるでしょうか。

患者さんの受付や会計はどうなるのか。診療報酬の請求は滞りなく行えるのか。職員の給与や勤務管理、物品の発注、施設の維持管理はどうなるのか。
行政から届く通知を読み解き、必要な対応を判断する人はいるでしょうか。診療報酬の算定ルールを確認し、病院の運営にどのような影響があるのかを考える人はいるでしょうか。

一日だけでも、さまざまなところで支障が生じるはずです。

それは、事務職がほかの職種よりも重要だという話ではありません。

病院は、医師、看護師、薬剤師、作業療法士をはじめとする多くの専門職が、それぞれの役割を果たすことで成り立っています。
そして、その中で事務職は、患者さんの受付から診療報酬の請求、職員の労務管理、経理、行政対応に至るまで、病院のさまざまな業務に関わっています。

それぞれの仕事は一見すると別々のものですが、実際には互いにつながっています。
現場で起きていることを知り、制度を理解し、数字を見て、人と人、部署と部署をつなぐ。
目の前の問題を解決するだけでなく、その問題が病院全体にどのような影響を及ぼすのかを考える。

それが、事務職の持つ「鳥の目」であり、病院全体を束ねる「要」としての役割につながるのではないかと思います。

もちろん、事務職が何でも知っているわけではありません。医療の専門的な判断は医療職に委ねなければなりませんし、事務職だけですべてを解決できるわけでもありません。
だからこそ、それぞれの専門性を尊重し、現場の声に耳を傾けながら、組織全体をより良い方向へ導くために何ができるかを考える必要があるのだと思います。

事務長という立場になってから、私が特に感じるようになったことがあります。

それは、病院を支えるという仕事には、目に見える成果ばかりではなく、目に見えない責任も伴うということです。

職員が安心して働ける環境を整えること。限られた経営資源をどう配分するかを考えること。制度の変更に対応し、必要な設備を整え、将来を見据えて病院の進む方向を考えること。
ときには、職員の希望に応えられない判断をしなければならないこともあります。誰かにとって望ましいことが、必ずしも病院全体にとって最善とは限らないからです。

一つの判断の裏側には、患者さんのこと、職員のこと、経営のこと、そして病院の将来があります。

さまざまな立場や考え方の間に立ち、答えを探していく。それもまた、事務長の大切な仕事なのだと感じています。

何事もなく一日が終われば、それはそれで当たり前。問題が起きれば、どうしてもっと早く気づかなかったのかと問われることもある。
うまくいっているときには目立たず、何かが起きたときには責任を問われる。
そんな、少し損な役回りだと感じることも、正直あります。

けれども、37年あまりという年月を経た今、私はこの仕事に携わってきたことを、誇りに思っています。

若いころに医事の現場で学んだことも、管理職として経験したことも、事務長として悩みながら判断してきたことも、すべてが今の自分につながっています。

現場の苦労を知らなければ、現場の声を本当の意味で理解することは難しい。制度を知らなければ、必要な判断もできない。そして、人の気持ちを考えなければ、組織を動かすこともできない。
経験を重ねたからこそ見えるものがあり、責任を担う立場になったからこそ気づくことがあります。

そして、もう一つ、心に残った言葉があります。

言葉は思考をつくり、思考は行動をつくる。行動は現実をつくる。

自分の仕事を「縁の下の力持ちのような仕事です」と語り続けることで、知らず知らずのうちに、自分自身を表舞台の外に置いてしまうことがあるのかもしれません。
もちろん、言葉を変えただけで、すぐに仕事の内容や周囲の評価が変わるわけではありません。

けれども、自分の仕事をどう捉え、どう語るかによって、仕事に向き合う姿勢は変わるのではないでしょうか。

「縁の下の力持ちのような仕事です」ではなく、
「病院全体を束ねる、要のような仕事です」。

この言葉の違いには、自分たちの役割をどう捉えるかという、大きな違いがあるように思います。

目立ちたいわけではありません。誰かより上に立ちたいわけでもありません。
ただ、自分たちの仕事を必要以上に小さく捉えることなく、その役割と価値を正しく理解したい。
そして、必要な場面では自分の考えを伝え、病院全体のために一歩踏み出していきたい。
それが、これからの病院事務職に求められる姿なのではないかと思います。

それぞれの職種が専門性を発揮し、互いを理解し、尊重し合う。その中で事務職もまた、病院をつくる大切な一員です。
かつての私と同じように、日々の業務に追われ、自分たちの仕事は地味で目立たないものだと感じている事務職の方もいるかもしれません。

もしそうであれば、少しだけ言葉を変えてみませんか。

私たちは、ただ陰で支えるだけの存在ではない。
病院全体を見渡し、人と人、部署と部署をつなぎ、それぞれの専門職が力を発揮できる環境を整える存在でもあるのです。

私自身、37年あまり病院事務に携わってきましたが、今でも学ぶことばかりです。経験を重ねたからといって、すべてが分かるわけでも、いつも正しい判断ができるわけでもありません。

だからこそ、これからも現場の声を聞き、職員と向き合い、病院全体を見渡しながら、事務職として、そして事務長として何ができるのかを考えていきたいと思っています。

縁の下で働いてきたからこそ、見える景色がある。

現場を知っているからこそ、気づけることがある。

そして、その景色や気づきを病院全体のために生かしていくこと。
縁の下から、病院の要へ。

それは、誰かを支えることをやめるという意味ではありません。

自分たちの役割を小さく捉えることなく、病院全体を支え、つなぎ、動かしていく存在として、自分たちの仕事に誇りを持つということです。

それが、37年あまり病院事務の仕事を続けてきた私が、今、改めて考える病院事務職のあり方です。

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